税務署員が放った「粋な一言」。7,000万円の借金がチャラになった驚きの結末

借金返済の記録

バブル崩壊で売り上げが激減。
借金がどのくらいあるのか、正確に把握するのも面倒になっていた矢先のことだ。

社員の不祥事によって、ある建築会社から新たに約7,000万円の借金を背負うことになってしまった。

弱り目に祟り目である。だが、この借金は帳消しになった。

「社長、ここまで頑張ったのだから、あの7,000万円はチャラにしてもらわないと」。
税務署員の思わぬ一言。

やがて、この言葉は現実となったのだ。

税務署員と2時間の激しい攻防。その後に聞いた驚きの一言

都内のある税務署から電話があった。

「社長、ほんの30分だけでいいですから時間をいただけませんか。御社には一切迷惑をかけません。C社の事で、どうしても聞きたいことがありまして。」

「いいですけど、私は明日の夕方から出かけます。来週月曜日ならそちらの都合の良い時間に合わせられますが」

「いや、月曜日では遅いんです。明日の午前中はいかがですか。何とかお願いします・・・・・」

金曜日の午前10時ころ、税務署員が二人でやって来た。

彼らが来る目的は分かっている。二年前に帳簿上だけで行ったC社との取引に関する裏付け調査だろう。

応接へ通して簡単な挨拶をすませると、二人は交互に言った。

「社長、あの取引はC社に頼まれたんですよね。たった一言そう言っていただけばいいのです。」

「はい、確かに頼まれました。正規の取引として」

若い方がいきり立つ。
「そうじゃないでしょ。無理矢理頼まれたのでしょ?」

「さっきから言っているじゃないですか。正式な取引だって。確かにおかしい取引だと思われるところはあるでしょうが、こちらはお世話になっている側だから、断れないこともあるんですよ」

若のが声を荒げる。
「こんな大赤字の取引が、なんで正規な取引と言えるんですか」

「ちょっと待ってよ。赤字の取引は犯罪だとでもいうの?じゃ、日本中の赤字を出した会社や赤字取引をした会社の社長を全部逮捕しなよ」

こんな調子で、延々と押し問答が続いた。

私の会社は、もうボロボロだった。
今更、赤字が2億や3億増えても何も変わらない。誰からも咎められることもないのだ。

今、目の前にいる税務署員も「御社には一切迷惑をかけません。御社が責任を問われることはありません。」と、何度も言っているのだから、もうこっちは怖いものなしの状態だった。

身分証をちらっと見さられただけだから、二人の役職までは分からなかったが、年配の上司らしい署員は途中からほぼ話さなくなっていた。

生きのよい若い部下と私のやり取りをじっと聞いているだけだった。

若い男が勢い余って、あまりにも声が大きくなるとさりげなく制するのだが、それが実にタイミングよく様になっているのが面白かった。

押し問答は2時間も続いた。
やがて、年配の署員が言う。

「○○君、この社長は何を言ってもダメだ。少しの時間で口を割るような人ではない。」

そして言った。
「今日の5時には書類を提出しなければならないんですよ。」

「いや、申し訳ない。お役に立てなくて・・・・・」

私がそう言っても、彼は表情一つ変えなかった。その浅黒く髭の濃い顔には、残念とも無念とも書かれていないように見えた。

若い方も「やるだけやった」という感じで、最後はきっぱりと鉾を収めてくれたのだ。
内心はどうか分からないが、少なくとも私にはそのように映った。

私は二人をエレベーターまで送ることにした。

エレベーターを待つ間、上司の方がこういう。
「社長、ここまで頑張ったのだからC社から借りている、あの7,000万円はチャラにしてもらいないさいよ」

私はエレベーターのドアが閉まってからもしばらく、深々と頭を下げていた。
「そうか、全部調べ上げているんだ。さすが税務署だ。それにしても、粋な税務署員がいたものだ。」

そして、今でも分からないことが一つある。

彼らは私に「C社から頼まれたと一言だけ証言してください」と何度も言ったが、決して「脱税を頼まれたと証言して欲しい」とは言わなかったのだ。

誘導尋問に当たるなどの理由があるのだろうか。

7,000万円の借金が本当にチャラになった意外な瞬間

「社長、ここまで頑張ったのだからC社から借りている、あの7,000万円はチャラにしてもらいないさいよ」

税務署員の放った粋な一言に勇気づけられ、心に残っていた私だったが、そう簡単には言い出せずにいた。

「今日の5時に報告書を上げなければならい」の言葉から察して、あの2億数千万円の取引はお咎めなしで成立したはずだ。

そうなれば、C社はかなりの節税、否、はっきり言って脱税に成功したことになる。
しかし、社員の不祥事から発生したといえども借金は借金だ。こちらに借りがあるのだ。

税務署員が来てから半年余りたった、ある日のことだ。C社から呼び出しがかかった。

用件が終わり、経理部長と雑談に移った時、私はそれとなく聞いてみた。
「部長、あの2億円の件はうまく行きましたか」

「いやあ、全くダメだったよ。税務署にすべて否認されてしまった」

「このニベもない返答は、一体何だ!]
私は、心の中で叫んでいた。

少し頭に血がのぼっていたので、思わず言ってしまった。
「税務署の人が言ってましたよ。ここまで頑張ったのだから、7,000万円はチャラにしてもらわなければ、と」

できる限り静かな口調で言ったつもりだったが、部長の表情が一変した。
額から顎にかけて、見る見る血の気が引いていくのが分かった。

こんな表情の変化を見るのは初めてだ。
ごくわずかではあったが、時間差で顔の上から下へと血の気が引いていくのだった。

透明なグラスに並々と注がれた赤ワインが、スーッと吸い取られて行くような感じだ。

部長は「ちょっと、待って。ここでちょっと待ってて」。
そう言い残すと、あわてて部屋を出て行った。

20分も経っただろうか、上気した顔で席に戻って来た。そして一気に言う。

「御社と我が社の間には一切の貸し借りはありません。かつて貸し付けたこともありません。今後、こちらから連絡することもありません。ウチの社長が、そう言っています。」

あまりの急展開で、すぐにはすべてを飲み込むことはできなかった。
だが、長い付き合いで一度も見たことがない部長の表情と、あの言い回し。

私は、そそくさと席を立った。

我が社は7,000万円の借金がチャラになったし、C社にとっても相当な意味を持つ2億数千万の取引だったのだろうと思いながら、駅への道を急いだ。

実は、いつもならこちらが呼びつけられるのだが、あの取引を持ち掛けられたときに限って、経理部長がわざわざ当社を訪問したのだった。

そうして、こうささやいた。
「これは単刀直入に言って『脱税』です。だから社長以外には頼めない」

私は今でも思う。
「粋な税務署員がいたもんだ」

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